自分らしく

〈バレエへの招待〉(7)バレエと原作

主人公が脇役?

バレエ作品には、小説や詩などまったく別の芸術表現を原作としているものがあります。今回は、そうしたバレエ作品のなかから、翻案する段階で原作とはかなり異なる作品になっているものを2作品ご紹介します。

『ドン・キホーテ』はコミカルな演技とテクニカルな踊り、スピード感のあるストーリー展開で日本でも人気の演目です。16世紀に活躍したスペインの作家セルバンテスの小説『ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』を原作としています。

ところが、原作で主人公をつとめる騎士かぶれの老人、ドン・キホーテはバレエでは主役ではありません。主人公はバジルとキトリという若いカップルで、ドン・キホーテは憧れのドルシネア姫を求めて夢の中をさまよったり、バジルとキトリの結婚を仲立ちしたりする完全な脇役で、踊りもほとんどありません。

本当は怖い『眠れる森の美女』

『眠れる森の美女』の原作は、フランスの作家シャルル・ペローが民話をもとにまとめた同名の物語です。バレエではオーロラ姫がデジレ王子のキスで目覚め、結婚するところで終わっていますが、原作では続きがあります。

王子のもとに嫁いだ姫は二人の子どもに恵まれ幸せな生活を送りますが、実は王子の母である王女は食人鬼(!)だったのです。姫と子どもたち3人を食べようと虎視眈々と狙っていた王女は、王子の留守中にいよいよ計画を実行に移そうとするのですが……。

翻案にあたって、この後半部分はバレエにふさわしくないと思われたのか、すべてカットされました。

サポーター

加集 大輔
加集 大輔
お笑いバレエ・ライター。
子どもの頃からの憧れだったクラシック・バレエを30代から習い始める。この経験をもとにバレエ誌に寄稿するようになり、その後、バレエ関連のライターとして活躍中。

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