自分らしく

つり革

つり革

今日も一日が終わる
いろいろなお疲れ様を乗せて
静かに地下鉄が発車する

つり革に自分の重みの
少しだけ預けて
昼間のことを思い出していると
つり革がぐぐっときしむ
今朝からたくさんの人たちの
想いを受け止めたつり革

車内に立つ人がいなくなると
身軽になったつり革が
ならんでそろって
ななめになって…

電車は駅にすべり込んでいく

地下鉄に乗ろうと、階段やエスカレーターで地下へ地下へと降りると、ときどき思うことがあるのです。だんだんと自分にかかるエネルギーが増えているのではないかと。地球の中心に近づいているからでしょうか。

そして、列車に乗ると駅から駅の間は景色がなく、ほとんど暗くて、次のホームに滑り込んだときにはまるで、さっきの駅からワープしてきたようにも感じます。地上の温度や、雑然とした動きからいつの間にか切り離されて、地下鉄のなかでは、地上と違う時間が流れているみたいです。

東京の地下鉄路線図はとてもカラフルです。切符売り場で見上げると平面的にディスプレイされていますが、実はこの足の下にすべての路線が埋まっていて、地下のなかでも寄り添ったり上下で交差したりしながら通っているはずです。そして、ものすごい数の列車が東から西から南から北から、そのほか斜めの方向からも、ひっきりなしに轟音を上げて走ったり、プシューとホームに止まったりしているはずです。

そんななかの、たったひとつの車両のたったひとつのつり革につかまっているときには、加速と減速とカーブの力を身体に受けているだけで、東京の地下鉄の全体像など思いつきもしません。でも、ちょっと想像を働かすと、今すごいスピードで東京の地下を動いている自分の姿ってとてもスリリング。

さて、目的の駅について、エスカレーターをつづれ織りのように上へ上へと向かいます。やっと、目指していたAナントカ出口から外に出ると、地下でもらっていたエネルギーから自由になって昼間のなかにぽっかり放り出される感じです。私の場合は、いつにも増して方向感覚が奪われてしまっていて、どっちに行こうか迷い、しばし立ち止まってしまうのが常です。

地上と地下の世界…小説や映画で展開されるパラレルワールドほどではないけれど、想像をたくましくしていると、街の異空間を楽しめるかもしれません。

サポーター

みやもと おとめ
みやもと おとめ
詩人。
本業は体育大学・ダンス学科教員。大学生たちがダンスを好きになり、さらに自信をもって子どもたちにダンスを教えられる指導者として育つことを願い、教育と研究に取り組む。

プロフィール